2011年9月

お奨めの天ぷら屋(5): 『畑中』

できるだけ多くの種類の天ぷらを食べたい、という欲張りな人にお奨めの店が麻布十番の「天ぷら畑中」です。ご主人は銀座天一、日本橋のてん茂で修行された方で、蝶ネクタイがトレードマークです。蝶ネクタイは、てん茂の影響を受けているようです。ご主人は一見、愛想が悪そうに感じますが、仕事に真摯なだけで、食べ方などの質問には、優しく応じてくれます。このお店は、どの季節に行っても食材の種類が豊富で、壁に掛けてある襖にその日のたね(食材)が20種類以上、ずらっと書いてありますので、お決まりのコースにお好みで追加するのもよし、あるいはその日のたねを片っ端から食べ尽くすのも楽しいです。天ぷら油は、焙煎した胡麻を時間をかけて搾って作る玉締め油とサラダ油のブレンドですので、胡麻の香りを残しつつ、あっさり感があり、いくつでも食べられる気がします。たねは魚貝類、野菜類いずれも充実していますが、ごぼう、蓮根といった根菜系が秀逸です。夏だと、ご主人の故郷、愛媛の巨大なすが甘みが強く、食感も抜群です。また、10月から4月頃までは、牡蠣の天ぷらが逸品です。この店の特徴は、ご主人が、たねによっては醤油でいただくことを奨めてくれることです。根菜系、なす、牡蠣などは、醤油との相性が良いことを認識させられます。場所柄、ワインをオーダーされるお客さんが多いですが、旨い日本酒も置いています。接客はサービス精神が旺盛なご主人の奥様が対応されています。

お奨めの天ぷら屋(4): 『いわ井』

天ぷらを心から愛する人にお奨めの店が銀座の「天冨良いわ井」です。銀座6丁目の路地裏にひっそりとある店です。ご主人は天一ご出身ですが、研鑚を重ねられて、天一色は殆ど感じません。食材の持ち味が最大限に楽しめる絶妙な揚げ方です。天一出身の天ぷら屋に必ずと言っていいほど置いてあるカレー粉は、この店にはありません。カレー粉は、きすなど、一部の魚とは相性がよいと思いますが、一般的には天ぷら本来の風味を消してしまうので、本来、天ぷら屋にはミスマッチかもしれません。ご主人の食材へのこだわりは極めて強く、基本的に野菜は天然ものしか使いません。春の山菜も天然にこだわり、ハウス栽培だと3月には出回る、たらの芽は、5月にようやく出荷される東北の天然ものしか使いません。たらの芽ほど、ハウス栽培と天然ものが異なる野菜はないでしょう。初夏に供される栃木の農家から仕入れる紫のアスパラガスは香りが強く、天ぷらとの相性は抜群です。魚貝類も充実しており、馴染の客の提案で始めたという、あさりのかき揚げは絶品です。10月から出される真牡蠣は濃厚な味わいで、牡蠣はフライより天ぷらの方が美味いと実感します。夏の岩牡蠣は使わず、真牡蠣で勝負、というのもご主人のこだわりです。また、コースの途中に供されるまぐろのづけは、箸休め的な感覚で味わえます。そして、このお店の一番のお奨めは、締めの天茶です。ご主人が懇意にしている銀座のお鮨屋さんで使う海苔が出汁のなかにたっぷり入っており、かき揚げとの相性のよさに驚かされます。天丼もありますが、このお店に限っては断然、天茶がお奨めです。穏やかな接客をされる奥様とともに、居心地抜群のお店です。

お奨めの天ぷら屋(3) 『よこ田』、『美かさ』

天ぷらを外で食べる機会が少ない天ぷら初心者にお奨めなのが麻布十番の「天冨良よこ田」と東急田園都市線宮崎台の「美かさ」です。いずれのお店もメニューはお任せのコース一本で、旬の食材をさっぱりと揚げてくれます。たねの数は多くありませんが、その分、リーズナブルな料金設定です。

「よこ田」は天ぷらの名門、天一ご出身のダンディーなご主人の店で、2年前に麻布十番の中で移転して席数が増え、予約が取り易くなりました。揚げ場が2つあり、一つは息子さんが担当します。ミシュランで最初に星を獲得した天ぷら屋です。天一出身らしく、カレー粉が置かれています。コースの最初にサラダが供されるのも特徴です。一品ごとにご主人が塩、天つゆ、カレー粉と、一番相性がいい食べ方を教えてくれます。油は胡麻油とサラダ油のブレンドで、軽過ぎず、重過ぎず、まさに初心者向けといえます。

「美かさ」は宮崎台の駅から2~3分のところにあり、田園都市線沿線に住んでいるのであれば、ぜひ訪問していただきたいお店です。沿線の住人でなくても、わざわざ訪問する価値のある店です。この店は、5時半と7時半の入れ替え制で、それぞれ一斉にスタートしますので、遅刻厳禁です。ご主人は東京のホテルの和食の料理人だった方で、天ぷらを揚げているうちにその魅力には惹かれ、独立されたベテラン職人です。旬の食材へのこだわりが強く、穴子は基本的に江戸前(東京湾で獲れたもの)しか使いません。穴子は目の前で裂いてくれますが、初めての方はややグロテスクな印象を受けるかもしれません。ただし、客の目の前でさばく天ぷら屋は非常に少なくなったので、貴重な体験と思ってぜひ目をくぎ付けにしてください。油は胡麻油と紅花油のブレンドで、あっさり感があります。

なお、いずれの店も人気店ですので、余裕を持った予約が必要です。また、食材が限定されていますので、いろいろな食材を片っ端から食べたいという大食漢には、あまり向かないかもしれません。

お奨めの天ぷら屋(2):『なかがわ』

天ぷらの神髄は美味い魚にあるという観点からすれば、真っ先に名前が挙がるのは、「みかわ」です。前回の「近藤」の近藤さんと東京の天ぷら屋の双璧の早乙女さんのお店です。しかし、茅場町の本店はあまりに狭いこと、早乙女さんがご自宅のある門前仲町に2年前にオープンされた「みかわ是山居」は交通の便に難があること、六本木ヒルズの支店は無味乾燥な印象があることから、あまり天ぷら屋に行く機会がない方々にお奨めしたいのは、築地の「天麩羅なかがわ」です。ご主人の中川崇さんは茅場町の「みかわ」で17年間、早乙女さんの下で腕を振るった後、7年前に満を持して独立されました。

 「なかがわ」は「みかわ」の特長である胡麻油の香ばしさ、海老を中心とした魚貝類の質の高さを引き継ぎつつ、「みかわ」では供されない素材も積極的に使います。代表例は夏の岩牡蠣で、ミルキーさと香ばしさが合体した絶品です。肉厚のきす、めごち、穴子の質の高さは、本家を超えているかもしれません。「近藤」さんほど食材の種類は多くありませんが、その分、素材は選び抜かれており、じっくり天ぷらを味わいたい人にお奨めです。テーブル席が2卓ありますが、やはり天ぷらはカウンターでいただきたいものです。クレジットカードは使えませんが、その分、良心的な価格設定になっています。接客は奥様がそつなくこなされています。

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