【Crossroad誌:掲載記事】 『凪』(星野有紀)(2012年10月号)/日々雑感:よくわからないこと?!

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【Crossroad誌:掲載記事】 『凪』(星野有紀)(2012年10月号)

 【Crossroad誌:掲載記事】 『凪』(星野有紀)(2012年10月号)

日本語と中国語のバイリンガル・マガジン『Crossroad誌』本年10月号に以下の記事が巻頭エッセーとして掲載されましたのでご紹介させていただきます。

毎月このような形で同誌の『巻頭エッセー』として、日本の若手アーティストを紹介する記事を書かせていただいております。同誌は、中国の華南地方(主として 広東省と香港)を中心に、ビジネス情報を主体としてはいますが、文化や芸術等様々な情報を発信している雑誌です。編集部は、広東省・深圳市にあります。

今回は、「星野有紀」さんの『凪』という作品です。

作品タイトル:『凪』

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コメント:
 
私たち人類が鳥のように翼をつけたり、あるいは風のように、自由に空を飛びまわることを夢見るようになったのはいつ頃からでしょうか?それは多分私たち人類が誕生して間もないころでしょうし、文字が誕生するよりもかなり前でしょうから、歴史が記録されるようになるはるか昔ということになるでしょう。
 
世界中どこに行っても、神々は空高く天空に住み、そして私たち人類は地上に暮らす、と古来から考えられてきました。それゆえ、神が住む天空に近いところを自由に飛び回る鳥は古来神の使いとも言われてきました。先日訪れた中国四川省の三星堆遺跡は今から4000年~3000年前の長江文明の中心となる無文字文化の遺跡ですが、その遺跡からは青銅製の巨大な「神樹」あるいは「宇宙樹」なるものが発掘されています。それは樹座の上に樹幹が置かれ、その樹幹には3層の枝があり、その枝には神の使いたる鳥たちがとまっています。これはまさに先の「天空」と「地上」の間に「人」が存在するという「天・地・人」を表したものでしょう。
 
翼をつけて空を飛ぶと言えば、聖書などに登場する「天使」が思い浮かびます。新約聖書のマタイやルカの福音書に登場する「受胎告知」の場面がやはり一番知られているでしょう。そこでは、処女マリアに天使のガブリエルが降り、マリアが聖霊によってイエスを身ごもることを告げ、またマリアがそれを受け入れることを告げる場面です。天使は、キリスト教やユダヤ教などで、神の「使い」とされていて、一見、男性のような姿をしていますが、聖書では男性・女性といった概念は存在しないそうです。
 
しかし、東洋で西洋の天使に相当するものといえば、仏教などの影響を受けた「飛天」で、これは、仏さまの周囲を飛行遊泳し、礼賛する「天人」のことです。しかし、この天人は、西洋の天使と違い翼をもっていません。そして、多くは「天衣」をまとった女性像として描かれるため「天女」と呼ばれています。法隆寺金堂内陣壁画の飛天図は有名で、その姿は大変自然で優美なものです。
 
さて、本作品ですが、単細胞の私であれば、「飛翔」「飛天」「翼」などというタイトルをつけてしまっていたでしょう。描かれている少女には「翼」の「天衣」もありませんが、その両手に軽くまかれたレースは天から与えられたかのようです。しかし、少女の表情には何の恐れも不安も感じられません。それどころか、何か確固たる自信のようなものが感じられないでしょうか?もはや、少女には天から与えられたレースさえ必要ないでしょう。
「凪」という本作品のタイトルは、この少女の心の状態が大きく変化・成長したところをとらえたものなのかもしれません。
 
略歴:
 
1988年 栃木県生まれ。
現在: 筑波大学大学院芸術専攻博士前期課程在籍。
 
2010年 第64回二紀展入選

 

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