2011年2月/日々雑感:よくわからないこと?!

2011年2月

【Crossroad:掲載記事】『灰原愛』(2010年5月号掲載)

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コメント:

作者である灰原の作品は、今までは、「永遠の無垢」をテーマに、少女・少年期のある瞬間々々、それは楽しかったり、驚いたり、恥ずかしかったり、あるいは物思いにふける、そのような瞬間を切り取ったような作品が多かった。そこにはそれら瞬間々々の動きが削りだされており、それらの瞬間に触れると、見る者がふっと微笑んでしまうような気持ちにさせられ、それらを見つけた作者の優しさの様なものが伝わってきた。

今年は、「はじまりの世界」と題して、「錬金術」を下敷きにした作品が発表された。ここで作者が言う錬金術というのは、私たちが一般的にイメージする様々な金属から貴金属(特に金)を精錬するというものではなく、もっと広い意味での、私たちの精神や肉体をより純化していくような試みのことを言うもののようだ。上記の3枚の写真は、左から、錬金術で言うところの「水銀」「硫黄」「塩」を表すもので、それぞれ「女性性」「男性性」「肉体」を象徴するものだそうだ。

このところ少女や少年ではなく、若い女性を扱う作品が見られるようになっていました。それらは、感情や動きを中に閉じ込めたような作品でしたが、今回も同様に、表面的には感情や動きを意図的に削り取ることで、内面的なものを表現しようとするような作品となっている。これは単に作品だけの変化ではなく、おそらく作者自身の内面的な変化によるものなのだろう。

作家経歴:

1981年 岡山県生まれ
2004
年 東京藝術大学美術学部彫刻科卒業
2006
年 東京藝術大学大学院美術研究科彫刻専攻修了

個展:
2006
年 「記憶の旅」 三丁目劇場2階展示室 (岡山)
2007
年 「胸のざわめき」 フタバ画廊  (東京)
2008
年 「秘密の花園」 unseal contemporary (東京)                              2003月 「はじまりの世界」 unseal contemporary (東京)

【Crossroad:掲載記事】『熊ヶ丘に獅子が立つ』(南館麻美子)(2010年2‐3月合併号掲載)

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コメント:

彼女の作品を見ていると、その作品を「窓」として、何かぼんやりしたイメージの中に引き込まれていくような、そして何かほっとする温かさが感じられるような感覚にとらわれる。

作品そのものやなかに登場する人や動物(時として架空のもの?)には、表面的には、動きや表情がない。それにもかかわらず、作品からは様々なイメージや感覚が我々に運ばれてくる。

彼女の小さな体の中には大きな世界が広がっていて、それは単に空間的なものだけでなく、時間的な広がりも持っているに違いない。

彼女は、その世界を様々なキーワードを手掛かりに作品として形にしているのだろう。

その世界は、彼女が言うところのルーツであったり、古い記憶や、子供のころの体験、遠い記憶のぼんやりとしたイメージであったりする。

また、それは単に彼女が持っているだけのものでなく、私たちも自らの中に共有しているあるいは共有できるものではないだろうか?

それが、彼女の作品を見たときに感じる「もの」ではないだろうか?

これまで、そのキーワードは「見かけと存在」や「窓からの眺め」であったりした。

次はどのようなキーワードで私たちを彼女の世界に連れて行ってくれるのだろうか?

略歴:

1971年岩手県盛岡生まれ

多摩美術大学及び同大学院卒業

75回日本版画協会展立川賞受賞(2007年)

5回池田満寿夫記念大賞展大賞受賞(2007年)

版画では「メディウム剥がし刷り」という新しい手法に取り組む。

版画以外にも木彫りも手掛ける。

2010215日~27日までシロタ画廊(東京・銀座)にて個展開催予定。

【Crossroad:掲載記事】『銀河の森』(芳野太一)(2010年4月号掲載)

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コメント:

紀元前54世紀頃に、ギリシャにおいて、精神と物質を分離する二元論的な考え方が確立し、その後2000年以上にわたって、その科学・文化は西洋世界の根本をなっていった。その後のデカルトの出現で、更にこの考え方は強化された。このような世界観は、科学技術の発展という効用をもたらしたが、文明を損なうという負の部分も残した。しかし、皮肉なことにも、そのような考え方からでてきた現代物理学の発展の結果として、この二元論的な考え方が見直しを迫られている。それは、物質の構成物及びその関連事象はどれも相互に関連しており、依存し合っているというもので、そこではそれらを個々の独立した存在として理解するのではなく、全体の中で理解しなければならないというものです。

『天地も、空も、大気も、編みこまれていく。そして風も、すべての生命の息吹とともに。かれは知っている、かれひとりが魂であることを。』(『ウパニシャッド』)

これは万物の一体性を表しており、芳野作品の中にもこのような万物の一体性を感じる。

今回の作品「銀河の森」が収められている作品集「風の箱」は、静謐で奥行きの深い詩的で幻想的な世界を作り出している。自然と人が織りなす、その瞬間瞬間の景色を、その瞬間だけの景色ではなく、太古からの記憶を包含するものとして、捉えようとしているように思われる。

 

自然を表わすものとして「絶えず形を変え、その動きによってのみその存在を示す流体物」としての「風」を、我々「人間」との関係で描いている。「風」が見せる様々な形を通して、また更に「銀河」という形で空間的な広がりを見せる。また、「種子」や「新芽」で太古からの時間的な関連性を表現し、作品を通して空間、時間、またそれらの相関性に関する考え方を一新させてくれる。

略歴:

1960年 東京に生まれる

1986年 創形美術学校卒業

1989年 日仏現代美術展(優秀賞)

1988年 国画会展(国画賞)・クラコウ国際版画ビエンナーレ・ソウル国際版画ビエンナーレ

1994 TAMAうるおい美術展(大賞)・日仏現代美術展(優秀賞)・現代日本美術展(国立近代美術館賞)

1994シガ・アニュアル94「版の宇宙」

77ギャラリーを中心に全国で個展を開催。現在、日本版画協会準会員・国画会会員。

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